消滅可能性⾃治体というワードをご存知でしょうか。⺠間の有識者でつくる「⼈⼝戦略会議」が、⽇本の地域別将来推計⼈⼝(2023年推計)に基づき、⼈⼝から⾒た全国の地⽅⾃治体の「持続可能性」について分析を⾏い、2024年4⽉に公開されました。
その数は、全体の4割にあたる744⾃治体と、恐々とする結果となっております。全国的かつ⻑期的に⼈⼝が減少するという⽇本史上で初めて経験する、とても⼤きな課題です。
茨城の県北地域もその課題先進地の1つです。⽇⽴市編・常陸太⽥市編・⼤⼦町編の3回に分け、各地域の現状や課題、そのために何に注⼒していくのか(地域ごとの主に産業⾯の⽅針)を紹介していきます。
本記事は、⼤⼦町編です。経験と機会を活かして、こんなことができるんじゃないか。そういったことを少しでも感じ取っていただけたら幸いです。
Contents
大子町の現状
茨城県で3番⽬の広⼤な⾯積を持ち、その約8割を⼭林が占める⾃治体です。
2010年の⼈⼝は20,073⼈(⾼齢化率36.6%)、2020年には15,736⼈(⾼齢化率46.2%)と減少しており、その後も10年毎に約3000⼈ずつ減少すると推計されています(国⽴社会保障・⼈⼝問題研究所による推計)。事態の深刻さは時間の経過と共に急増しています。
また、⾼齢化率は県内で最も⾼く、すでに総⼈⼝の半数弱が⾼齢者となっています。
産業の特徴
町の約8割が⼭林で、県内最⾼峰を誇る⼋溝⼭を有しています。そんな豊富にある森林資源を活かした林業が主要産業の1つです。⽊材業界で良質な材として扱われる⼋溝材の産地でもあります。多くの町産材が使用された町役場(2020年に竣工)を訪れると、その良質さを肌で感じることができます。(無料ワークスペース、フリーWi-Fiあり)
年間の気温差50℃(最低気温:−10℃、最高気温:40℃)という寒暖の差を活かした農業も盛んです。⼤⼦町の就業者の割合(2020年)では、製造業(20%)に次いで農業・林業(14.4%)が2番⽬に多い産業です。
また、年間約100万人の観光者が訪れる県内有数の観光地でもあります。袋⽥の滝を始め、滝の裏側に⼊れる「⽉待ちの滝」、登山に人気の「男体山」「⼋溝山」、紅葉や温泉といった豊富な観光資源を活かした観光業が盛んです。
インターンシップを活用し、新たな土産物を開発するなど新たな動きも生まれています。
⼤⼦町の商業
- 主な⽴地:常陸⼤⼦駅や袋⽥の滝周辺の商店街、町内各地域の商店等
- 事業所数:241事業所(卸売業含む)
- 従業者数:1,065⼈
- 年間商品販売額:約134億円(令和3年経済センサス)
⼯業
- 主な業種:⾷品や⾦属製品関連の製造業
- 事業所数:35事業所(従業者4⼈以上)
- 従業者数:795⼈
- 製造品出荷額等:約141億円(令和3年経済センサス)
大子町の課題
⼈⼝減少が急速に進み、すべての分野で担い⼿が不⾜し、町全体の活⼒の低下が懸念される中、「⼈⼝減少問題への対応」が最重要課題と位置付けられています。
なお、2023年に実施された町⺠アンケート調査では、町⺠の約8割、中・⾼⽣の約7割が本町に“愛着を感じている”と答えており、愛着度がとても⾼いことが判明しています。
⼀⽅で、以下のような産業分野での取り組みに関する満⾜度が低いのも課題です。「農業振興、森林整備・保全、商業振興、⼯業振興、企業誘致、雇⽤対策、移住・定住促進対策」
ここからは、産業分野別の現状と課題をご紹介していきます。
「農業」の現状と課題
⼤⼦町の総農家数は1,676⼾(令和2年農林業センサス)で、農業産出額は約42億円(令和3年市町村別農業産出額(推計))となっています。
これまで、基幹産業である農業の維持・発展に向けた様々な取り組みを積極的に進めてきましたが、農業の情勢が厳しさを増す中、農家数の減少や⾼齢化、後継者不⾜が進んでいます。
また、耕作放棄地や有害⿃獣による被害の増加など、対応すべき課題は数多くあります。
「林業」の現状と課題
広⼤な森林を⽣かし、古くから⼋溝⼭系の良質な杉材をはじめとする⽊材の⽣産が盛んに⾏われ、林業も基幹産業の位置を占めてきました。
しかし、⼩規模・零細な森林所有者が⼤半を占めること、⽊材価格や採算性の低迷、林業従事者の減少や⾼齢化、後継者不⾜などが相まって、適正に管理されていない森林が存在しています。
「観光」の現状と課題
「全⽅位、アウトドア。⾃然基地⼤⼦町」のキャッチフレーズのとおり、⾃然を満喫できるスポットやアクティビティが町全域に広がり、また、多彩で魅⼒ある観光・交流資源があります。
新型コロナが流⾏した2020年からは、⼤⼦町の観光業界も⼤きな打撃を受けました。
2023年には観光者が約100万⼈訪れるなど近年は回復の兆しがみられますが、まだ以前までは戻りきれていない現状です。
「商⼯業・企業誘致」の現状と課題
多くの地⽅において、商圏内の⼈⼝の減少や⼤型店志向などから商業の衰退が進んでいます。⼤⼦町でも、慢性的な⼈⼿不⾜や燃料費の⾼騰など、厳しい状況に置かれています。
特に商業は、経営者の⾼齢化や後継者不⾜などの理由で廃業する事業者も少なくなく、それに伴い空き店舗も増加しています。
また、商圏内の⼈⼝減少により、既存の販路のみでは経営が困難な場合も多く、新たな販路開拓等に取り組む必要があります。
⼤⼦町の今後の⽅針
町がこれから何に注⼒していくのか。町役場が独⾃で⾏うこともありますが、地域内外の⽅々と連携して⾏うことも多いです。
その際に、スキルがあり、かつ地域への想いを持ったプレイヤーが少ないことも、地域課題の1つです。
ここからは、町総合計画の産業に関する部分からピックアップしてご紹介します。
農業:農産物の⽣産性の向上・ブランド化、6次産業化の促進
- 関係機関と連携し、効率的な⽣産技術や関連施設、デジタル技術を⽣かしたスマート農業の導
⼊等を⽀援し、⽶・野菜・⾁⽤⽜をはじめ各作⽬の⽣産性・品質の向上や⼀層のブランド化を促
進 - (⼀社)⼤⼦町振興公社や農林業者・商⼯業者等と連携し、新たな特産品や、地場農産物を⽣
かした加⼯特産品の開発
農業:農産物等の消費の拡⼤
様々な情報媒体によるPRの強化、都市部における出展活動の展開等により、⼤⼦町農産品ブランド「だいごみ」をはじめとする農産物等の町内外における消費の拡⼤
林業:森林の保全と活⽤
町⺠や町⺠団体、⺠間企業等と協働し、森林・⾥⼭の保全・整備に努めるほか、森林セラピーや環境学習、⽊⼯体験の場としての森林の活⽤
観光・交流:地域特性を⽣かした観光・交流機能の強化
- 地域特性を⽣かした観光・交流機能の強化を進めるため、関係機関・団体や事業者等と協働し、
「アウトドア」、「⾷」、「農」などをキーワードとした体験型観光コンテンツの充実・開発 - 県と連携し、「奥久慈⾥⼭ヒルクライムルート」や「常陸国ロングトレイルコース」を活⽤し、
県北周遊滞在型観光コンテンツの開発・磨き上げ
観光・交流:情報発信・プロモーション活動の強化
町の知名度の向上と観光・交流⼈⼝、関係⼈⼝、移住・定住希望者の掘り起こしに向け、ホームページやSNS、FMだいご、⼤⼦町アプリ、YouTube等の様々な情報媒体等を活⽤し、町⺠との協働の視点も検討しながら、町の魅⼒発信をはじめとするタウンプロモーションを推進
商⼯業・企業誘致:商⼯業経営の安定化・活性化の⽀援
- 町内外の産業⽀援機関と連携し、町・国・県等の各種補助制度や融資制度の周知と活⽤促進に
努め、販路開拓や⽣産性向上、⼈⼿不⾜対策、省エネ、デジタル化、事業継続⼒強化等を⽀援し、
商⼯業経営の安定化を⽀援 - 常陸⼤⼦駅周辺商店街の活性化と町内全域の商店等における消費拡⼤を⽬指す戦略を策定し、
商業の活性化
商⼯業・企業誘致:創業等の促進
- 「⼤⼦町創業⽀援事業計画」に基づき、⼤⼦町商⼯会と連携し、創業等に関する相談・セミナー
の実施、「⼤⼦町創業⽀援補助⾦」の周知と活⽤促進、⾦融機関等との連携による「⼤⼦町創業
⽀援ネットワーク」の充実・活⽤ - 空き店舗を利活⽤した創業等を促進するため、「⼤⼦町商店街空き店舗等情報提供事業(空き
店舗バンク)」による情報提供・マッチングを⾏うとともに、「⼤⼦町商店街空き店舗等活⽤⽀
援事業補助⾦」による空き店舗等の改修に関する⽀援 - 事業承継等の促進に向け、事業承継マッチングサービス等を活⽤し、事業を譲り渡したい経営
者と事業を譲り受けたい後継者候補の双⽅に対する総合的・継続的な⽀援
雇⽤対策:複業⼈材・外国⼈材の活⽤促進
⼤⼦町商⼯会等と連携し、町内企業と都市部等の複業⼈材とのマッチングを促進
雇⽤対策:魅⼒ある職場づくりの促進
茨城労働局と連携し、町内企業等に対し、多様な働き⽅の実現や業務の効率化をはじめとする「働き⽅改⾰」についての啓発活動・情報提供
まとめ
3地域で計48社の中⼩企業の経営者に「経営改⾰のための中⻑期的施策の実⾏状況について」経営者にヒアリングをした結果、⽬先の業務に追われる経営者も多く、中⻑期の施策を考えられていない、あるいは着⼿できていない企業が8割ほどありました。
「課題の整理や新たな⼿段に着⼿できていない」「現状に対する施策が⾒当たらない」「施策はあるが⾏動ができていない」といった状況ではあるものの、危機感や中⻑期に何かやりたいという意思はあります。
もちろん、すでに着⼿されている・着⼿し始めた経営者もいます。
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