近年、「越境学習」や「地域副業」といった新しい働き方が、地方創生や人材育成の観点から注目されています。
今回は、エーザイ株式会社で多様なキャリアを築きつつ、副業人材として新潟県・燕三条地域の企業の課題解決に挑戦した角田 崇さんにインタビュー。
地域副業の実態や越境学習の意義、シニア社員のキャリア形成へのヒントが詰まった内容をお届けします。
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プロフィール
角田 崇さん(45歳)/エーザイ株式会社勤務
【経歴】営業7年、労働組合出向7年(委員長の経験あり)、経営企画部、営業部門人事、本社人事など、幅広いキャリアを持つ。現在は人的資本経営コンソーシアムのプログラムを活用し、地域副業に挑戦中。
副業制度の導入が越境学習のきっかけに
——角田さんが越境学習に挑戦したきっかけを教えてください。
角田さん:
2023年度に自社で副業制度が導入されたことが大きなきっかけでした。
人事として「副業制度を社員のモチベーションやエンゲージメントの向上につなげられないか」と考えていたとき、人的資本経営コンソーシアムという団体が大企業の人材と地域企業をつなぐ『複活』に取り組んでいることを知ったんです。
「社外でいろんな経験を積みたい」という個人的な好奇心と、「自分自身が副業を体験すれば、制度をより良くするヒントが見つかるかも」という業務的な視点の両方から挑戦することにしました。
燕三条地域の企業で、副業人材として活躍
——実際に参加された『複活』の内容について教えてください。
角田さん:
プログラムの募集地域は、金属加工で有名な新潟県の燕三条地域でした。燕三条のキャンプ用品はよく使っていましたが、個人的な縁があったわけではありません。
もし他の地域が募集されていたとしても、たぶん応募していたと思います。
内容としては、一泊二日で地域の企業を訪問し、経営者や責任者の方と直接お話ししながら、抱えている課題をヒアリングします。
その後、自分で提案書を作って企業に提出。企業側が興味を持ってくれたら、面談を経て副業契約がスタートする、という流れです。
——そこで角田さんはどんな提案をされたんですか?
角田さん:
私は調理器具メーカーに対して複数の提案をしました。その中で「販路拡大」のアイデアが採用されて、3ヶ月間のお試し契約がスタート。月に1回ミーティングか現地同行を行う形で取り組みました。
ミーティングでは、趣味のカフェ巡りで得た知見を活かして、製品を取り扱ってくれそうなお店を提案。
現地同行では、ターゲットを定めて製品のプロモーションを行いました。相手のニーズをお聞きし、ターゲットを明確にしたことで一定の手ごたえを得ることができたと思います。
メーカーにも契約期間内で一定の成果を感じていただき、契約を延長してもらいました。お互いに負荷が少ない形での契約になっていて、ゆるくつながらせていただいています。
地域副業で感じたギャップと学び
——実際に地域企業と関わってみて、どんな気づきがありましたか?
角田さん:
大企業と中小企業では、仕事のやり方、人材育成、人脈のつくり方、採用など、いろんな点でギャップがあると気づきました。
特に感じたのは、価値観や環境の違いです。大企業であれば同じ組織に所属する同僚の数が多く、仕事の相談が気軽にできます。また、先輩後輩の関係でキャリアの相談も可能です。
しかし、中小企業ではそういった相談相手が身近にいないため、自分が悩んだ時に相談することが難しいんだなと感じました。
地域経済の貢献に必要なこと
——副業を通じて地域に貢献するには、どんなことが大切だと思いますか?
角田さん:
中小企業の経営者が「副業人材をどう活かすか」を具体的にイメージすること、大企業側の社員は「自分の価値をどう提供できるか」を考えることが必要だと思います。
中小企業にとって、「大企業のリソースや人材をうまく活用して自社リソースだけでは解決できない課題を解決していく」という発想にあまりなじみがないでしょう。
大企業の社員側も、「中小企業が気づいていない課題を見つけて自分のスキルや経験を活用する」という発想ができる人は意外と少ないと思います。
今回のプログラムでは、互いに副業をどのように活用するのがいいのかを話し合えたのが良かったと思います。
「販路拡大」が採用された理由も、後から企業側に聞いたところ「今まで取り組んだことがなかったから、投資としてやってみたかった」とのことでした。
このように、地域企業と副業人材が議論することで新たな解決策が生まれ、地域経済の発展に貢献できるのかなと思います。
地域副業のメリットとは
——地域副業の魅力はどんなところですか?
角田さん:
地域副業の最大の魅力は「視野が広がること」ですね。
普段の仕事では関わることのない多様な方々との出会いは、新たな発見や視野の拡大につながりました。私だけかもしれませんが、大企業にいると視野が狭くなりがちなので。
まさか、趣味の経験が副業につながるとは思ってもいなかったですし、自分のすべての経験やスキルを見直すきっかけにもなりました。
——都内での副業との違いはありますか?
角田さん:
私の視点ですが、都内で副業するほうがニーズが高く、効率的に収入を得られる環境があると思います。
自分の経験を活かして効率的に稼ぎたい方は都内の方が向いているかもしれません。でも、地域副業で得られる「人とのつながり」はやはり特別です。
普段関わることのない人々と出会い、時間を共有できる体験はお金には代えられません。「あの地域に自分を知っている人がいる」と思えることも、人生の豊かさにつながります。
燕三条地域の方との出会い、地域企業の方との副業経験は私にとって大きな財産です。もし、別の地域で新たなご縁があれば、ぜひ挑戦してみたいですね。
シニア社員としてのキャリア自律と支援
——社外での経験やスキル向上に積極的な理由は?
角田さん:
私が労働組合の役員時代に希望退職と大幅な人事制度改訂がありました。そのとき、会社に依存して働いていては幸せにはなれないと痛感したんです。
この経験から、「どんな状況であっても自分の人生を自分で切り開けるような人になりたい」と思い、自己研鑽に取り組むようになりました。
——他のシニア社員の方々は、キャリアをどう考えていると思いますか?
角田さん:
シニア社員の方は会社と主従関係であった時代を長く経験したため、「与えられた仕事をやり遂げることが大切」だと考える方が多く、キャリアに関して受け身の方が多い印象です。
でも今の時代、過去よりも働く期間が延びています。50代以降もやりがいを感じられる仕事に就けるかどうかは、今後幸せな人生を送れるかどうかに直結する重要なことだと思うんです。
年齢に関係なく、社内外での経験やスキルの見直しをすることで、自分のキャリアを活かせる仕事に就くチャンスが広がっていくはず。定年後も自分の経験やスキルを活かせる仕事に関わることができたら、とても幸せではないでしょうか。
——エーザイでの取り組みについても教えてください。
角田さん:
わが社には、年齢問わず誰もが挑戦できる施策が多数ありますが、若手・ミドル層と比較してシニア社員からの挑戦が少ない傾向にあります。その理由として、「一定の年齢に達したら後進に道を譲るべきだ」という考えがあるようです。
そこで、タレントディベロップメントチームによるシニア社員が自分のキャリアを見つめ直し、今後のキャリアを考えていく研修を実施しました。この研修は前向きに考えていただきたかったので、手挙げ制です。
また、DE&I活動の一環で、シニア社員の本音を聞く施策も進めています。シニア層の本音をお聞きすることで、現場に刺さるキャリア支援ができるのではと考えました。まだまだ、取り組みを始めたばかりです。
越境学習の意義と魅力
——越境学習に迷っている人に向けて、メッセージをお願いします。
角田さん:
越境学習はキャリアを見つめ直すうえで非常によい機会です。
異なる環境で働くことで視野が広がり、今の自分と仕事を俯瞰的に見られるようになります。俯瞰的に見たことで、会社でも『今後はこうしていきたい』と明確な方向性を持てるようになりました。
また、仕事に対するマインドセットも大きく変わりました。
「今携わっている仕事は、将来の副業ネタになる可能性がある。だから経験は絶対に無駄にならない」。そう考えると、自分の希望していた仕事ではなくても、目の前の仕事に意味を見出すことができ、仕事へのモチベーションも向上します。
他にも、私生活と仕事の相乗効果があると思っていて、私生活が充実している人は仕事も充実する。その逆もまた然りです。
越境学習を通じて新しい興味を得ることは、仕事にも良い影響を与えると思います。
まとめ
角田 崇さんの副業体験は、自身のキャリア形成だけでなく、地域企業との共創を通じて社会にもポジティブな影響をもたらしました。
地域副業を通じて得た「視野の広がり」や「人とのつながり」は、シニア世代におけるキャリア再構築や、企業内の人材活性化にもつながるヒントを含んでいます。
越境学習は単なるスキルアップに留まらず、「自分の可能性を再発見する機会」となりうる重要な取り組みです。
企業としては、社員が社外経験を通じて成長できる環境づくりが求められ、人事担当者にとっても戦略的な人材育成の鍵となるでしょう。
地域副業や越境学習に興味を持つ方にとって、角田さんの実践は大きな指針となるはずです。
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