より良い関係と成果へ:フリーランス・事業者間取引適正化等法

より良い関係と成果へ:フリーランス・事業者間取引適正化等法 - 茨城県北の人事部

人材不足や採用難、コストの削減、生産性の向上など諸々の理由により、業務委託などによって外部人材と協働する企業が増加傾向にあります。

 

一方で、フリーランス人口も増加している昨今。
副業の緩和や解禁なども伴って新たなプレイヤーの参入も増えており、企業にとっても成長のための手段や選択の幅が拡大しました。

優秀な人材と協働する・継続するためにも、協働によって長期的により良い成果を上げていくためにも、信頼関係や安心して働ける環境の構築が必要になるのではないでしょうか。

そのためにも必要となる新たな法律『フリーランス・事業者間取引適正化等法』をご紹介します。

 

Contents

対象者

この法律の対象となる事業者は、【特定受託事業者】と【特定業務委託事業者】で、下記のように定義されています。

【特定受託事業者の定義】(以後、フリーランスと記載)
業務委託の相手方である事業者であって、次のA、Bのいずれかに該当するもの。

A:個人であって、従業員を使用しないもの
B:法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

 

【特定業務委託事業者】(以後、発注事業者と記載)
フリーランスに業務委託をする事業者であって、次のC、Dのいずれかに該当するもの。

C:個人であって、従業員を使用するもの
D: 法人であって、二以上の役員がいる、または従業員を使用するもの
(従業員=1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者)

なお、フリーランスが、フリーランスに業務委託をする場合は、発注事業者に含まれます。
その場合は、後にご紹介します『取引条件の明示義務』のみが対象となります。

(出典:内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 説明資料)

 

フリーランス・事業者間取引適正化等法とは

フリーランス新法という名称で耳にされた方もいらっしゃると思います。
フリーランスの⽅が安⼼して働ける環境を整えるため、 発注事業者との取引の適正化や就業環境の整備を図ることを⽬的とした法律で、令和6年11月1日に施行されました。

その背景には、近年、働き方の多様化が進展・普及し、それぞれのニーズに応じて柔軟に選択できる環境を整備することが重要となっていること。

その一方で、フリーランスの方が取引先との関係で様々な問題やトラブルを経験されているケースがあること。
例えば、厚生労働省が設置している『フリーランス・トラブル110番』には、報酬の支払いに関する相談やハラスメントなど就業環境に関する相談が寄せられているそうです。

トラブルに遭われた方はもちろん、真っ当に協働されている多くの発注事業者にとっても、残念な状況です。
そこには故意だけでなく、認識のズレや不足などもあったのかもしれません。

そういった背景などによって新法に定められた具体的な義務や禁止行為をご紹介していきます。

 

取引条件の明示義務

発注事業者は、取引の条件を書面か電磁的方法(メール、SNSメッセージ、チャットなど)により直ちに明示する義務があります。

これまでは、口約束での契約が起因でトラブルになるケースも少なくなかったようです。
テキストでの明示義務は、双方の認識のズレを無くすなどトラブル回避にも効果的です。
※フリーランス同士の取引も対象です。

(明示する内容)
A:発注事業者とフリーランス(特定受託事業者)、それぞれの名称
B:発注事業者とフリーランスとの間で業務委託をすることを合意した日
C:委託業務の内容
D:役務の提供や納品などを受ける期日、場所
E:報酬の額や支払い期日
F:検査を完了する期日(検査を行う場合のみ)
G:支払方法に関すること(現金以外の方法で報酬を支払う場合のみ)

フリーランスから書面の交付を求められた時は、一部状況を除き、遅滞なく書面を交付する必要がありますが、発注書に明示することも可能です。

 

報酬支払と期日設定の義務

役務の提供(納品など)を受けた日から60日以内(できる限り短い期間)の報酬支払期日を設定し、支払う義務があります。

フリーランスが業務に集中してより良い成果を生み出すことにも、フリーランスとのより良い関係を築くことにも寄与します。

※支払期日を定めなかった場合は、役務の提供や納品などを受けた日が支払い期日となります。
※再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内
(取引条件を明示する際に『再委託である旨』『元委託者の名称(識別できるもの)』『元委託業務の対価の支払期日』も明示する必要があります。)

(出典:内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 説明資料)

募集情報の的確な表示義務

募集情報に対し、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示は禁止されています。
また、正確かつ最新の内容の表示も義務化されているため、募集が長期化してしまう際にも注意が必要です。

募集や業務を成功させるためにも、募集前に協働の目的や進め方などをしっかり設計することをお勧めします。
特に目的が曖昧・ズレがあるといった場合は、適した選考ができず、本来得られるはずの成果が目減りしやすいです。

 

ハラスメント対策に係る体制整備義務

従業員と同様に、フリーランスに対してもハラスメントが行われることのないよう下記の措置が必要ですが、労働法に基づき整備された社内体制やツールを活用できます。

・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化や方針の周知・啓発を行う。
・行為者に対して厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定する。
・相談窓口の設置およびフリーランスに周知し、相談に適切に対応できるようにする。

ハラスメントへの事後の対応も求められます。
・事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握する。
・被害者への配慮措置を速やかに適切に行い、行為者への措置も適正に実施する。
・再発防止措置を実施する。

 

また、上記に併せて、こちらの措置も必要です。
・当事者などのプライバシー保護に必要な措置を講じ、従業員やフリーランスへ周知。
・相談、協力などを理由に不利益な取扱い(契約解除など)をされない旨を定め、フリーランスに周知や啓発をする。

(出典:内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 説明資料)

ここまでが、従業員または役員がいる発注事業者の全てが対象となる義務です。
下記からは、業務委託の期間に応じて加えられる内容となります。

 

発注事業者の7つの禁止行為

フリーランスへの業務委託(1ヶ月以上)に関し、A~Eの行為を禁止、F・Gの行為によってフリーランスの利益を不当に害してはならないとされています。

SNSなど個人が情報を拡散できる昨今では、想像以上に会社の評判が下がり、今後の募集にも影響する危険性もあります。

(禁止行為 ※A、B、C、Gは、フリーランスに責任がない場合)
A:受領拒否の禁止
B:報酬の減額の禁止
C:返品の禁止
D:買いたたきの禁止
E:購入や利用強制の禁止
F:金銭や役務など不当な提供要請の禁止(委託内容に含まれていない役務を無償で行わせる等)
G:不当なやり直しや業務内容変更の禁止

 

育児介護等と業務の両立への配慮義務

フリーランスからの申し出に対し、配慮が必要です。
業務の性質や内容によって配慮することが出来ないケースでは、その理由を説明することが必要です。

業務委託の期間が6ヶ月未満の場合は努力義務となりますが、お互いが納得できているか否かで、長期的な関係性や成果の質が変わってくることも十分に考えられます。

今後も高齢化は必ず進行する故に、フリーランスに配慮をする経験を通じて、より良い社内体制を構築するヒントも得られる可能性があります。

(出典:内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 説明資料)

 

解除などの予告義務

業務委託の期間が6ヶ月以上の場合、発注事業者は、解除日か契約の満了日から30日前までに予告する義務があります。(契約の解除や不更新の場合かつ例外事由に該当しない場合)
※契約の更新により6ヶ月以上継続する委託も含まれます。

(予告の例外事由)
・予告が困難(災害などのやむを得ない事由)
・上流の事業者の契約解除など(再委託の場合)
・短期間の業務委託(30日以下など)
・フリーランスの責めに帰すべき事由がある
・フリーランスの事情で相当な期間、個別契約が締結されていない(基本契約がある場合)

 

また、フリーランスから解除の理由を請求された場合は、下記の例外事由に該当する場合を除いて、遅延なく開示する義務もあります。
なお、予告や開示の方法は、書面、メール等、FAXとなります。

(開示の例外事由)
・第3者の利益を害する恐れがある場合
・他の法令に違反することとなる場合

 

違反行為への対応

行政機関が報告徴収・立入検査といった調査を行い、指導・助言や勧告を行います。
勧告に従わない場合には命令・公表されることもあり得ます。
なお、命令違反には50万円以下の罰金があります。

 

まとめ

人口減少を起因に、あらゆる局面で変化が発生しています。
また、AIやロボットなど技術革新のスピードも加速しています。
それらの変化に対応するのも、新たな技術を使いこなすのも人の力。

労働人口が減少していく日本社会においては、その分野の専門家といえる外部人材との協働が増加傾向にあることは、自然な成り行きに思えます。

本法律において6つの義務と禁止行為が定められたものの、社会通念上では目新しい内容ではありません。

 

本記事が、これから副業の方などフリーランスの皆様との協働に挑戦される企業の皆様にとって、構えすぎず、貴社が日頃から従業員に敬意をもって接されているように、より良い関係と成果を築いていくきっかけとなれましたら幸いです。

 

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